
第五話
242:名無しの歴史部員 2017/08/23(水)22:25:18 ID: ID:wDu
彡(゚)(゚)「これは疑似ローターや。3つの筒が1つのエニグマになっとるわけやな」
(☆…●)「仕組みが気になるな……簡単にでいいので教えてくれないか」
彡(゚)(゚)「了解や」
彡(゚)(゚)「まず、解読機と銘打っとるが、なにもスカンピンで解読できるようなハイパーマシンやない。解読するにはクリブが必要や」
彡(゚)(゚)「クリブをどういうふうに使うかっちゅうことやが……ポーランドの解読法を覚えとるか?」
(☆…●)「確か、6文字暗号の中からループを見つけ出したのだったな」
彡(゚)(゚)「せや。連中はx文字目とx+3文字目の対応から、ループ構造を見出したわけやけど……」
彡(゚)(゚)「ワイは、暗号文と平文の対応からのループ構造を利用しようと考えたんや」
彡(゚)(゚)「いくら、エニグマの構造や送信方法が変わろうが、暗号文と平文だけは絶対あるしな」
243:名無しの歴史部員 2017/08/23(水)22:28:13 ID: ID:wDu
彡(゚)(゚)「最初の一文字『w』を入力するときのローター設定を『S』としとくで。この設定Sを求めたら、解読できるわけや」
彡(゚)(゚)「そして、『w』を打ったあと、ローターは1目盛動くやろ? その時の設定は『S+1』や」
彡(゚)(゚)「これを表にするとこうなるで。」
彡(゚)(゚)「そして、この中にあるループは次の通りや」
彡(゚)(゚)「設定Sでの w→E 設定S+1での e→T 設定S+3での t→W」
(☆…●)「w→E、e→T、t→W…… W→E→T→Wでループするわけか」
245:名無しの歴史部員 2017/08/23(水)22:31:05 ID: ID:wDu
( ゚∀゚)「……マシンに関わるもんなんだろ? だいたい想像はつくな」
( ゚∀゚)「『電流』か?」
彡(^)(^)「ご名答や。ボンベは、正しい設定を見つけた時、電流が流れるような仕組みになっとるんや」
彡(゚)(゚)「なんでそんなふうになるのか……少し難しくなるんやけどな」
彡(゚)(゚)「『設定Sで、w→Eに変換される』を言い換えれば、『設定Sだと、入力端子(w)からの電気信号は出力端子(e)へと流れる』ってことや」
彡(゚)(゚)「同様に、設定S+1では、入力端子(e)から出力端子(t)へと流れるし……」
彡(゚)(゚)「設定S+3では、(t)から(w)やな」
246:名無しの歴史部員 2017/08/23(水)22:34:08 ID: ID:wDu
彡(゚)(゚)「これにて、設定?、?+1、?+3のエニグマができたことになる」
彡(゚)(゚)「さて、これからや。設定Sでの出力端子は(e)、設定S+1での入力端子も(e)やろ?」
彡(゚)(゚)「これを結ぶ。つまり、設定?と設定?+1の端子(e)を導線でつなぐんや」
彡(゚)(゚)「他の端子も同様につないでいく。そうすれば、1つの回路が完成するはずや」
彡(゚)(゚)「後は、ローター設定を1目盛ずつずらしていって、電流が流れる設定を見つけ出したら勝ちや」
彡(゚)(゚)「間違った設定やったら、換字先の端子と導線で結ぶ出力端子が一致せず、電流が流れへんしな」
彡(゚)(゚)「小難しくいったけど、図解すればこんな感じや。四角いのがエニグマやで」
247:名無しの歴史部員 2017/08/23(水)22:37:07 ID: ID:wDu
( ゚∀゚)「ほうほう、しかしよく一からこんなもん作ったな……」
彡(-)(-)「今までの研究が役立ったのもあるで。『万能チューリングマシン』っちゅうやつなんやけどな」
( ゚∀゚)「万能チューリングマシン?」
彡(゚)(゚)「せや。これは、無限の長さのテープに入力することで、いかなる演算をも可能にするっちゅう、思考実験上の仮想機械や」
彡(-)(-)「決定不可能な問題を探し出すためのアイデアやったんやがな……残念ながら、全て探し出すことは叶わんかったわ」
真偽を定められない命題も少数ながら存在するという『決定不可能性』
それならば、真偽をはかれるマシンを作り出せばいいのでは? という発想から生み出されたのが『万能チューリングマシン』である
『いかなる演算をも可能にする』 我々はこれに近しい機能を持つ利器を知っている
コンピュータ――アラン・チューリングは紛れもなく、現代コンピュータの父と言えるだろう
248:名無しの歴史部員 2017/08/23(水)22:41:09 ID: ID:wDu
しかし、ボンベはチューリングの想定通りには、機能しなかった
1つの暗号の解読に一週間近くかかったのだ
彡()()「あかんか……やっぱ、プラグボードがネックやな」
チューリングは、プラグボードを考慮しなくてもよい配線を見つけ出していたが、それでも電気ループ26通りを検証する必要があった
17576通りを26回分検証するというのは、決して短時間に行えるものではなかった
(☆…●)「うむ……」
(☆…●)「チューリング君。このボンベだが、改善余地があるぞ。ここをこういうふうにして……」
彡(゚)(゚)「……はえ~」
(☆…●)「ここをこんな感じにすれば……これで、26通りの電気ループを一気に検証できるはずだ」
彡(゚)(゚)「ファッ!? こんなんでええんか! 改造したろ!」
チューリングとウェルシュマンは、改良を重ね、最新型ボンベ『スパイダー』を完成させる
解読時間は大幅に削減され、実用的な解読法が新たに生まれた
249:名無しの歴史部員 2017/08/23(水)22:44:12 ID: ID:wDu
( ゚∀゚)「……クックック。ドイツ軍も迂闊だな」
彡(゚)(゚)「?」
( ゚∀゚)「ローター配置のことだがな……同じ位置に同じローターが、2日連続で配置されないことに気づいた」
( ゚∀゚)「つまり前日の配置が1-2-3だった場合、1-3-4とか、5-2-4とかはありえないんだ」
( ゚∀゚)「この法則に従えば、ローター配置は28通り除外できる。半分近くは削れるぜ」
彡(゚)(゚)「はえ~、撹乱するためかもしれんが、ワイらからしたらとんだ愚策やな」
( ゚∀゚)「そして、プラグボードも隣り合う文字は繋がねえ。配線も特定しやすくなるな」
( ゚∀゚)「極めつけはこれだ。メッセージ鍵も『Q-W-E』とか『B-N-M』とか、キーボードで隣り合っている文字が出やすいんだ」
彼らは、出現頻度の高いローター設定を『シリー』(cilli)と呼んだ
解読者達は、こういったショートカットを余すこと無く利用し、暗号を解読していったのである
250:名無しの歴史部員 2017/08/23(水)22:47:14 ID: ID:wDu
船員「大変です! 右舷船首と船尾全体に大きな攻撃を受けました!」
船長「くそっ! まさか……奴らか」
船員「あ! またもや衝撃が!」
船長「ぐっ! 沈む! 沈んでしまう!」
船長「おのれ……ドイツ軍めがああああああああああ!」
――
海へ消え行くイギリス船を見届けた後、3つの影は姿を消した
一糸乱れぬ統制、集団攻撃、襲撃されるまで気づきえぬ隠密性――それはさながら狼のように
ドイツ軍の潜水艦『Uボート』が牙をむき出した
251:名無しの歴史部員 2017/08/23(水)22:50:10 ID: ID:wDu
①敵船を見つけ次第、本部に連絡
②本部が、送信地点に近いUボートに、敵船の場所を送信
③複数のUボートで囲い、敵船を沈める
カール・デーニッツ考案の『群狼戦術』は、イギリスを兵糧攻めにするうえで、絶大な効果を上げる
なにせ、イギリスは植民地からの補給に頼らざるをえず、海路を使うことは必須だった
その補給線すら、Uボートに断たれてしまうなら、その先に待つのは飢えだけである
252:名無しの歴史部員 2017/08/23(水)22:54:07 ID: ID:wDu
Uボートで使われる海軍エニグマの解読は、イギリスの存亡がかかる、第八兵舎の重要な任務であった
しかし、おいそれと解読させてくれるほど、海軍エニグマは甘くない
(;゚∀゚)「……だめだ。わからねえ」
(☆…●)「うーむ……」
海軍エニグマが難解である理由の1つとして、使っているローターの種類の多さがあげられる
陸空軍は5種類だけだが、海軍は8種類
単純に組み合わせを比べると、60:336 陸空軍の5倍以上である
もう1つ、鍵の送信方法が、独自であったことだ
エニグマで暗号化してから、手動でもう一度暗号化するという二重暗号化
たとえ、エニグマを解読できても、手動の暗号化のプロセスがわからなければ、解読不可能なのだ
この送信方法を取るネットワークは『ドルフィン』と呼ばれた
ドルフィンは数あるネットワークの中、一番解読が困難なものだった
253:名無しの歴史部員 2017/08/23(水)22:57:23 ID: ID:wDu
彡(゚)(゚) カリカリ
彡()()「あかん、この方法でも無理やったか……」
彡(゚)(゚)「ヒント……ヒントがほしいな。やっぱ、あれしかあらへんか」
チューリングが取り出したのは、ポーランド人が偶然解読できた、ドイツ海軍の電報である
彡(゚)(゚)「ふむ……」
彡(゚)(゚)
彡(゚)(゚)「……あ」
1939年 冬
ある一夜、チューリングは、平文と暗号文と鍵の関係から、手動の暗号化プロセスを導き出す
この夜は、戦争において、最も重要な夜だった
254:名無しの歴史部員 2017/08/23(水)23:00:10 ID: ID:wDu
( ゚∀゚)「『ドルフィン』の暗号化方法が、わかっただと!?」
彡(゚)(゚)「せや。やつらは二文字ごとに換字しとったんや。送信者側で説明するで」
彡(゚)(゚)「例えば、メッセージ鍵が『S-D-G』とするやろ? まず、『SDG』をエニグマで換字する。換字先が『WFU』とするわ」
彡(゚)(゚)「次に、『WFU』の下に、適当な三文字を並べる。これはホンマになんでもええ。敵を撹乱するのが目的やしな」
彡(゚)(゚)「その三文字を『YAJ』とするなら、こうなるで」
WFU
YAJ
彡(゚)(゚)「そして、縦の二文字に注目や。この二文字を別の二文字に変換するんや」
彡(゚)(゚)「仮に WY→ER FA→BU UJ→NT に変換したら、さっきの文字列はこんな感じや」
EBN
RUT
彡(゚)(゚)「後は、『ERBUNT』っちゅう文字を、電文の始めにつけるだけや。複文するには、今の手順の逆をすればええで」
(☆…●)「ほう……あのわずかな資料から、よくそこまでたどり着いたものだな」
(☆…●)「だが、このままだと解読できんな」
彡(-)(-)「二文字の換字表……『二連字表』が必要やからなぁ」
( ゚∀゚)「こればかりは、どうしようもねえ。俺らの力が及ぶ範囲じゃねえな」
彡(゚)(゚)「……『ピンチ』にかけるしかあらへんな」
『ピンチ』とは、敵船を拿捕し、船内にあるエニグマ機、日鍵表など、解読に繋がるものを奪取することである
チューリング達は解読の望みを、『ピンチ』に託した
255:名無しの歴史部員 2017/08/23(水)23:03:14 ID: ID:wDu
彡(゚)(゚)「……今回のピンチはどうやったんや?」
( ゚∀゚)「お目当てのものは無かったようだぜ。追加したローター3個の内、2個が見つかったようだが」
彡(-)(-)「そか……まあ、それも重要なもんやしな」
二連字表は、なかなか手に入らない
こうしている間にも、Uボートはイギリス船を次々と喰らい尽くしていく
――三週間前に着港するはずの船ですが、今もなお――
(;゚∀゚)
――〇〇沖で、3隻のイギリス船が沈没――
(;☆…●)
――商船二十隻が、一晩で沈められ――
彡()()
解読者達は、歯を食いしばり、それを黙って見続けるしかない
開戦から1940年12月までに、Uボートに沈められた商船は585隻にのぼった
256:名無しの歴史部員 2017/08/23(水)23:06:02 ID: ID:wDu
イギリスがクレイモア作戦を実施した月である
彡(゚)(゚)「……」ソワソワ
( ゚∀゚)「持ってきたぜ……」
(☆…●)「今回のピンチで奪った文書か」
彡(゚)(゚)「頼むで、二連字表……二連字表を……!」
( ゚∀゚) ガサガサ
( ゚∀゚)
( ゚∀゚)「おい……」
( ゚∀゚)「ねえぞ……」
258:名無しの歴史部員 2017/08/23(水)23:09:24 ID: ID:wDu
(☆…☆)「……」
( ゚∀゚)「いや待て。確かに二連字表は無かったんだが……」
( ゚∀゚)「プラグボードとローターの設定表があるんだよ」
彡(゚)(゚)
彡(゚)(゚)「ファッ!? むっちゃ重要情報やんけ! ホンマにそんなんゲットできたんか!?」
彡(゚)(゚)「ちゅうか、んなもんあれば、二連字表も復元できるんちゃうか!?」
( ゚∀゚)「で、できるのか?」
彡(゚)(゚)「おう、やったろうやないか! ようやく、海軍エニグマ解読の光が見えてきたで!」
259:名無しの歴史部員 2017/08/23(水)23:12:28 ID: ID:wDu
これを求める重要な単語が、先に挙げたクリブの1つ『EINS』だ
( ゚∀゚)「ほら『EINS変換表』を持ってきたぜ」
彡(゚)(゚)「よっしゃ、取り掛かるで」
『EINS変換表』は、17576通りのローター設定における、『EINS』の変換先を表にしたものである
例えば、ローター設定『G-S-C』において、EINS→KRFG と変換されるものとしよう
彡(゚)(゚)「……ん?」
彡(゚)(゚)「あったで! 114文字目から『KRFG』や!」
(☆…●)「つまり、114文字目におけるローター設定は『G-S-C』ということだな」
( ゚∀゚)「114文字目……つーことは、『G-S-C』から113目盛ローターを巻き戻せば……」
彡(゚)(゚)「ああ、そこが開始位置設定や」
こうして、チューリング達は二連字表の復元に成功する
その後のピンチによる有用な情報も相まって、海軍エニグマを日常的に解読することが可能になった
解読者だけでなく、ピンチを命がけで敢行した兵士たち
彼らの一年以上に及ぶ死闘の末、とうとう、Uボートの全容が明らかになったのである
260:名無しの歴史部員 2017/08/23(水)23:15:58 ID: ID:wDu
彡(-)(-)
陸海空……全てのエニグマは丸裸にされた
残るは、ただ一つ
ヒトラーと将官、 および将官と将官の通信に使われた、エニグマを超える暗号機
彡(゚)(゚)
『タニー』
これがイギリス解読者に立ちはだかる最後の壁であった
261:名無しの歴史部員 2017/08/23(水)23:17:36 ID: ID:wDu
262:名無しの歴史部員 2017/08/23(水)23:41:40 ID: ID:fHz
イッチ文章うまいな
263:名無しの歴史部員 2017/08/23(水)23:41:53 ID: ID:3TI
引用元:彡(゚)(゚)「エニグマ解読……?」






